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【推理小説】『大雷雨夜の殺人』の殺人現場は名古屋のどこだったのか?

名古屋が舞台の殺人事件と聞いて、えっ、勝地の少ない名古屋のいったいどこで殺人が?と興味を持つ人も多いかと思います。

先日、その名古屋で起きた殺人を描いた、昭和3年発表の『大雷雨夜よるの殺人小酒井不木ふぼく・1890-1929)*1という作品を読みました。

この短編小説、犯人が判明するや2ページであっというまに幕切れになることにも驚くのですが、今回は殺人事件は名古屋のいったいどこで起きたのか?をみていきたいと思います。

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①『大雷雨夜の殺人』のあらすじ(簡単に)

 

8月のある夜、大雷雨のあった名古屋の町で殺人が起こります。

犯人と思しきしまうまの衣装を着た男が目撃され、門前中署の名探偵刑事が事件を追いますが、調査を進めるうち、被害者は記憶喪失のフィリピン帰りの男で、ある女性を探していたことが判明します。

シマウマ男は?記憶喪失の男の過去は?彼が探していた女性の正体は?、という内容なのですが、結末はさておき、ここで興味があるのは事件はどこで起きたか?ということです。

 

②「鶴舞公園で殺人」という思いこみ

 

さて、そもそも私が何からこの小説を知ったかというと下の本なのですが、

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「あいち文学散歩」H25

この本の60ページに、「『大雷雨夜の殺人』では鶴舞つるま公園が舞台になっている。」と書かれており、「あー、そうなの?」と思ったわけです。

この鶴舞公園、名古屋の人はほぼ知ってるであろう、明治42年(1909)開園の古い公園で、なるほどなるほど、小説の殺人事件など毎日起こってもおかしくないほどの広さと身を隠せる建物やカラスだらけの林などがある場所です。

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現在の鶴舞公園名古屋市昭和区

ということで、「鶴舞公園で殺人事件」と思って読みはじめたわけですが、

鶴舞公園の記述は一切出てこず(あれ?)、予想に反して殺人は偕楽町・若葉町という場所で起こります。

えぇ、偕楽町??若葉町??(そんな地名あるのかな?)

この他にも紅山町とか聞いたことのない町名が出てくるのですが、時代は昭和初期。これらは昔の名古屋の町名なのでしょうか?

(しかし、あの本には「鶴舞公園が舞台」とあったし、鶴舞公園ふきんの町名?)としばらく悩んでいたのですが、やっぱり、どこで殺されたのか気になります

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古い時代の鶴舞公園

というわけで、鶴舞公園の中にある鶴舞中央図書館で昭和初期の地図を見せてもらい、偕楽町を探したのですが、今度はそんな町名は存在しないことが判明!

うーん。この「偕楽町」、昔の歓楽街みたいなあってもおかしくない町名だと思ったけど、作者の創作だったのでしょうか?

そして「鶴舞公園が舞台」というあの一文は、結局のところ間違いであったと思うのですが、こう書かれたのは作者が鶴舞公園を舞台にした他の作品を書いているので、それと混同したのかなと思います。

 

小説で読む名古屋」では、不木の他の作品の概要をみることができます。ここでは、名古屋が舞台の小説を一覧表にして紹介しているのですが、その量たるや驚くほどで心がちょっと折れたり。文芸作品からはご縁がなさそうな名古屋の町がこんなにも舞台になっているんだとか、鶴舞公園は登場頻度が多いなぁなど、みていると発見あり。

 

③その他のみどころ(少しだけ)

 

他にもこの小説に出てきた地名をみてみると、大津町(中区にあった町名)門前署(中区にあった中警察署の前身)大須七ツ寺ななつでらの芝居小屋、本町のカフェーなど今につながる地名を拾うことができ、

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昔の本町ほんまち通(中区)

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大須観音より流行ったという七つ寺 奥に大須観音がみえる

そうした地名とともに昭和初期の名古屋の雰囲気が感じられて心ときめきます。

殺人とあまり関係ないカフェーのモダン・ボーイの痴態に長文をさいたり、境内の芝居小屋・見世物で縁日的に賑わったという大須観音の様子など、そこだけ読んでも面白かったり。

また朝鮮で人夫誘拐団に襲われ、フィリピンに売られるという身の上話や殺人が暴かれた後、関釜連絡船で高飛びしようとする犯人など、外地や海外が頻繁に出てくるのも時代だなぁ、いいなぁと思います。

 

最後に

 

ということで、『大雷雨夜の殺人』の殺人現場は名古屋のどこだったのか?をみてきました。

現場は、「偕楽町」という架空の地名(?)であったのですが、シマウマ男のいた大須からはそんなに遠くない設定なので、鶴舞公園ふきんは妥当と思えるし、文中に偕楽町・若葉町は以前盛り場だったとあるのでもっと大須寄りかとも考えられます。*2

今回は場所の特定はできませんでしたが、ご当地小説は土地勘があれば、話がググっと立体的に鮮明に浮かんできます。普通の小説を読んで感じるモヤモヤ感に疲れたら、ご当地小説いいかもねーです。

これを機に不木の他の作品を読んでみようかな?と思いながら、以上、『殺人現場は名古屋のどこだったのか?』でした!ではまた!

 

【参考】不木の小説が読めるのは、

◯『ふるさと文学館』(「大雷雨夜の殺人」を所収) 

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『ふるさと文学館第27巻』(株)きょうせい

『ふるさと文学館』は各都道府県の作品がよめるシリーズ。図書館にあることも。

◯『小酒井不木探偵小説全集』本の友社 ほか

*1:大正末から昭和初期に活躍した推理作家。

*2:ちなみに作者の不木は鶴舞公園近くの御器所ごきそに住んでいた。