先日、気になっていた、『中世ふしぎ絵巻』というまるで絵巻のような本を買いました。
なかみが想像しづらく、タイトルの怪しさ、表紙のイラストとともに???だったのですが、今回はこの本の内容について書いてみたいと思います。
①絵巻ぽいイラスト
この本の珍しい点は、まるで絵巻のように、長方形の見開き画面(横約51cm×縦15cm)に中世の怪異譚をイメージした絵が広がるところで、全27話の全てにこうした見開き絵を収録しています。
そのぶん、値段も3200円(税抜)と少しお高め。
この絵巻本の最大のポイントは、やはりこの挿し絵が好みかどうか?という点にある気がします。
なんせ本の半分が絵なのですから!
このイラスト、明るい色づかいのたいへん可愛らしいものなのですが、昔の絵巻物をイメージしていた私にはちょっとポップすぎる印象でした。
この数枚の写真では絵のニュアンスは伝わりにくいと思うので、興味のある方はぜひ実物を!自分もアマゾンのレビューの写真でしばらく悶々としておりました。
②『中世ふしぎ絵巻』の内容
さて、絵巻本の内容ですが、旅の月刊誌『ひととき』に絵とともに連載されたものをその後、出版したというもの。
【著者】西山克 【絵】北村さゆり
【発行】株式会社ウェッジ(2017年)
文章のほうは、日本中世史などが専門の先生が書かれているので、なかなかの読み応え。
その分、絵が挿まれるといい具合に気がゆるみ、また1枚の絵が話の全てを表しているので、怪異をイメージする手助けをしてくれます。
収録された27話は、おもに日記や文献、また物語・説話集などから採られた中世の不思議な話の数々です。
例えば、神殿の柱に「金花・銀花が咲いた」とか(正体は昆虫の卵)、山だのお墓だの器物まで鳴る鳴動の不思議や、いん石に彗星・人魂などの「光りもの」の話。
頭が猫、胴体が鶏、尾が蛇という色々合体した怪鳥が出現したり、定番・狐の怪に、馬がしゃべるなど動物がらみの怪異。
また、将軍家の室町御所で家鳴りがし、巨大な妖物が現れてついには人の頭を食べた、という恐怖事件などなど。
この他にも、川湊に居たという遊女集団や吉田神道を作った吉田兼倶(かねとも・1435-1511)の話。中世には「虹が立つと市を開いた」という故事など、いかにも中世ぽいお話が続きます。
③個人的な感想や発見
こうした「中世100%の話」を続けて読み進むうち、ほんのちょっぴり頭が’中世脳’になっていく気がしました。
この本でも取り上げられている、器物の怪をモチーフにした『付喪神つくもがみ絵巻』ですが、「なんで器物の霊なんだろう?」とどこか不思議な気持ちがしていたものです。
しかし読んでるうち、昔は今と違って家財なんか100年ものとか、壊れなかったら200年とか、とんでもなく物持ちがよかったのかもしれないな、と。
そんな古色蒼然とした長持ながもちだの、いつからあるのか分からない盥たらいだの、家にある家財にはけっこう不気味なものがあったんじゃないか?という想像もひょっこりと浮かんできました。
また、『春日権現験記かすがごんげんげんき』という春日明神の霊験を描いた絵巻についても書かれているのですが、
下の竹の上にいる美しい女性が春日明神で、「なんで竹の上にいるんだろう?」とこれまた不思議に思っていました。
『春日権現験記』は、この「竹の上に静止する異常」をはじめとして、ゾクッとさせられるカ所のある絵巻。
この絵巻にふれた本文で、
「中世を生きた人々は、その竹のしなりのうえに聖なるものが乗っていると考えた。」
引用:「竹林の女」86Pより(『中世ふしぎ絵巻』所収)
とあり、(あー、そういうことなのかー)と目から鱗でした。
竹林の中のあの葉のざわめき・竹のしなりに、心がざわめく・妙な胸騒ぎを感じる人は私の他にもいるのではないかと想像をするのですが、
中世の人ももしかすると同じ気持ちではなかったのか?と。
最後に
ということで、『中世ふしぎ絵巻』の内容をところどころみてきました。
この本の大きな特徴の「絵」は、人好き好きかと思います。また、本文中の「中世の怪異譚」は文献から、丹念に描写をされています。
こうした怪異譚は、いっけん荒唐無稽すぎて、これまで読み流してしまうことも多かったのですが、その裏に潜む人間の姿があることをこの本では示唆してくれています。
怪異の羅列の背後にあるもの、そこに人間の意図がないかじっくりと考えてみること。この本が教えてくれたのはそうした丁寧にものを視る視点だったと感じています。
テキトーに流さずちゃんと読もう!と思いながら、以上、『中世ふしぎ絵巻の内容とは?』でした!ではまた!