絵本『ミイラ学 エジプトミイラ職人の秘密』 ミイラ職人一家のミイラ作りがリアルで面白い!(ライデンの「古代エジプト展」会場で買えます)
昨年から、ライデン国立古代博物館所蔵の「古代エジプト展」が巡回していますが、その会場で見かけて気になった『ミイラ学 エジプトミイラ職人の秘密』というミイラの絵本について紹介したいと思います。4月16日からいよいよ東京展が始まりますが、会場で、「あっ、この本か」と思って、目に止めてもらえたら嬉しいです。
- ①絵本『ミイラ学』は何が面白いのか?
- ②あらすじ
- ③ミイラ作りの知識
- イウヤとチュウヤのミイラについて
- 【絵本】アリキ『エジプトのミイラ』佑学社1981
- 【図鑑】てのひら博物館『古代エジプト』東京美術2015
- 最後に
①絵本『ミイラ学』は何が面白いのか?
最大の特徴はその視点です。本の説明文にも「ミイラ職人の目線で描かれた本」とあり、読みだすと、まるで自分がミイラ職人一家の中に入ったようなエア体験が味わえます。
そして、40pにも満たない本ですが、2019年発行の新しい本ということもあり、知らなかったミイラに関する知識に驚きます。
②あらすじ
引用:『ミイラ学』15p 脳を取り出す場面
あらすじは簡単です。王室御用達のミイラ職人パネブ一家が、亡くなった王妃の父のミイラ作りを担当し、ミイラを丁寧に仕上げて埋葬するというもので、最後は葬儀と宴会のシーンで終わります。
そして、面白いのは、この絵本に出てくるミイラがちゃんと実在していることで、ミイラの名前はイウヤとチュウヤ(イウヤの妻)といい、有名なツタンカーメンの曽祖父にあたります。
(葬儀のシーンでは、イウヤの娘(王妃ティ)、孫のアメンヘテプⅣ世(後のアクエンアテン)と妻のネフェルティティら王族の参列が描かれています)
また、知らなかったのですが、このイウヤとチュウヤの墓は王家の谷にあり、ツタンカーメン王墓の発掘以前は、状態の良いこと・埋葬品が残っていたことでとても有名だったのだそうです。
③ミイラ作りの知識
面白く感じた、ミイラ作りの知識を本から拾っていきます。
◯ミイラ職人は、大都市テーベの西岸「死の町」に住み、神官と同階級とみなされ、尊敬されていた。
◯ミイラ作りは口伝によって伝えられた。
◯仕事中は、強烈なにおいに耐えなければならなかった、などの記述。
また、肝心のミイラ作りですが、
「バネブはまず、遺体の右側に立ち、長くて先のとがったまっすぐなブロンズのシャフトを手に取った。それをイウヤの鼻の穴にゆっくり差し込み、それで少しづつ骨をたたいてくだく。」引用:『ミイラ学』(14P)
など、脳をかきだすために、まず細い金具で骨をくだいて取り出せるようにする、という描写など個人的にリアルでした。
脳・内臓を取り出した遺体はその後、ナトロン溶液*1 やヤシ酒などで洗われ、体の形を保つためにナトロンの詰め物をします。
そして、そこにまた粉末ナトロンをふりかけて、斜めのテーブルに置き、遺体から水分を排出します。こうして、戸外でナトロン干しすること40日間。今度は、仕上げをする「美の家」という作業場に遺体を移します。
引用:『ミイラ学』22p 包帯をまく場面
ここでは、遺体を柔らかくするため、香油マッサージが施され、肌は生前のような柔らかさを取り戻すのだとか‥。また体内に詰められたナトロンの詰め物を取り出し、新しい物にとりかえ、鼻の穴・お腹の切り口から熱い樹脂を入れて、開いた体の隙間をつめて原形を保つ作業をします。
最後に、15日はかかる包帯を巻く作業に入ります(包帯巻は、水除け・虫除けの樹脂を塗る作業も含む)。ミイラ作りは2ケ月はかかる長丁場。数多くの工程の繰り返し、ということが分かります。このほかには、
◯液体の一滴まで、体液のついたものは体の一部とみなされ、壺に入れられ、お墓に納められた。
◯左腹部の切り口から腸をとり出すが、最低限しか傷口を開けないため、手を差し込み、手の感覚でとり出した。
◯ミイラの両手を交差させるスタイルは王などのスタイルで、一般の貴族は両手はまっすぐ生殖器を隠すように置かれた。
といった、頭に思い浮かぶようなリアルな描写で、こうしたミイラ作りの知識がこの絵本の魅力になっています。
(1994年、古代エジプトの技法で、人間をミイラにする実験が解剖学者らによって行われた、などの記述がさらっと書かれていましたが、どんな人がミイラになることを了承したのか、その実験結果も気になりました。)
イウヤとチュウヤのミイラについて
さて、絵本の最後にイウヤとチュウヤのミイラのついて詳しく述べられているのですが「状態がいい」という通り、生きていた時そのままのような写真に驚きます。
2人はシリアなど外国出身だったのではないかという説があるそうで、高い鼻、くぼんだ眼窩、顔立ちからなるほどそうかも、と思えます。優しく穏やかな容貌で、品があって、私たちの知る王様のミイラとは異なるミイラのように感じました。
引用:『ミイラ学』37p 王家の系図 髪型の違いなども面白い
最後に2冊、ミイラと古代エジプトの本を簡単に紹介して終わりにしたいと思います。
【絵本】アリキ『エジプトのミイラ』佑学社1981
引用:『エジプトのミイラ』 美しい絵が魅力
この『エジプトのミイラ』の発行から40年、新発見も増えました。今回の『ミイラ学』を読んで特にそう思いました。『エジプトのミイラ』でも、ミイラ作りや葬儀の話が同様に取り上げられ、ピラミッドや古代エジプトの神様についても描かれています。
【図鑑】てのひら博物館『古代エジプト』東京美術2015
こちらもライデンの「古代エジプト展」会場で買うことができます。フルカラーで見やすくコンパクトで、古代エジプト情報が網羅されていて、おすすめの1冊です。
引用:『古代エジプト』31p 歴代の王様のページ
最後に
今回は「古代エジプト展」でみかけて、気になっていた本を紹介しました。私は、名古屋展の会期終了後、最近、図書館で見つけて、その面白しさに気づき、購入をしました。
会場で面白そうな本を見つけても、慌ただしかったり‥、そんなに何冊も買えないし‥、で心残りになってしまうことってありますね。
これから「古代エジプト展」は、東京、仙台、山口、兵庫と巡回していきますが(静岡展は3月末まで)、会場で売られている本をチェックする際の参考になれば幸いです。
‥ということで、「『ミイラ学 エジプトミイラ職人の秘密 』ミイラ職人一家のミイラ作りがリアルで面白い」でした!以上です、ではまた!
*1:ナトロンは塩のような鉱物。水分を排出する。