前回の「心が戦慄するようなノンフィクションが読みたい!①」の続きです。今回は、リアルの王様「戦争編」を取り上げます。「戦記文学」ってすごくたくさんありますが、今回は心に残った作品、『零戦の空戦記』、『インパール・ビルマでの戦い』、『捕虜収容所(モンゴル)』『戦艦大和の最後』をとりあげます。
- ①『大空のサムライ』坂井三郎(S47年 元本はS28年)
- ②『あゝ青春零戦隊』小高登貫こだかのりつら(S44年)
- ③『地獄の戦場泣き虫士官物語』比留間ひるま弘(S57年)
- ④『黒パン俘虜ふりょ記』胡桃沢耕史くるみざわこうし(1983)
- ⑤『戦艦大和ノ最後』吉田満みつる(S27年)
- 本当の事を知りたいけれど‥
- 最後に(戦争物で得られた教訓)
有史以来、絶え間なく戦争をしてきているので、『戦記物』は多くて当然なわけですが、有名なものは、『きけわだつみのこえ』『黒い雨』『西部戦線異状なし』『アンネの日記』『夜と霧』『総員玉砕せよ!』(水木しげる)、『ビルマの竪琴』『悪魔の飽食(731部隊)』‥あたりでしょうか。どれも有名ですが、戦記物のごくごく一部です。
今回は、私が『戦記物』を読むきっかけとなった『大空のサムライ』。石原慎太郎が薦めていたこの本から紹介していこうと思います。
①『大空のサムライ』坂井三郎(S47年 元本はS28年)
何しろこの本、かっこいいのです。
エースパイロット坂井三郎の自叙伝で、零戦乗りの空戦の記録です。
義に厚く、心優しく後輩思い、男の中の男といった坂井三郎と、戦争中の様々なエピソードに胸を打たれます。
『大空のサムライ』は大変評判となり、売れたのですが、この本にはゴーストライターが存在し、脚色や創作があるといわれます。
最初に読んだ時は、そのようないわくがあることは全く知らず、とても感動しました。
脚色・創作部分のせいで価値が0になることは決してありませんが、やはり事実の真贋を見抜くのは非常に難しいと思った1冊でした。
旧版では昭和17年負傷し、日本に帰還する辺りで終わっています(旧版が見つけれなかったため、記憶違いであるかもしれませんが‥)。
「奇妙なところで終わるなぁ」と印象に残ったのですが、「負け戦では本は売れない、戦記物は勝たなければダメだ」という著者の発言を後から目にし、「なるほどなぁ」と思ったことでした(S17年から日本はほぼ負け戦)。
②『あゝ青春零戦隊』小高登貫こだかのりつら(S44年)
こちらも同じく零戦乗りの空戦記録。
パイロットの戦死率は高く、実力と運、両方ないと戦争を生き抜くのは難しかったのでしょう。
同じ戦闘機乗りの作品でも、悲憤に満ちたもの、緻密な戦闘記録と様々ですが、小高さんのはまるで子供が書いたような素直さで好きでした。
次に紹介する比留間さんと同じく、くよくよしない、淡々とことにあたる、著者の姿勢が好ましく、心に残る一冊となっています。
③『地獄の戦場泣き虫士官物語』比留間ひるま弘(S57年)
士官学校出たてのホヤホヤの少尉が、昭和19年ビルマへ出征し、絶賛負け戦の中、ひたすら退却をする話。
他の戦争物とは違う、異色の「戦記物」です。
悲惨な話であるはずなのに、著者の泰然自若な性格のせいか、全篇淡々としたユーモアがあり、コミカルですらあります。
(タイトルに「泣き虫士官」とあるけれど、泣いてる箇所は一ケ所もないという不思議)
たくさん描かれた、本人の味のあるイラストにクスッとします。
(ビルマで「痔」の手術をする場面など豪胆そのもの)
「最悪の戦場」のはずなのに、なぜこんなにユーモアがあるのだろうか?と考えさせられる1冊。【ビルマの戦没者数 18万人】
④『黒パン俘虜ふりょ記』胡桃沢耕史くるみざわこうし(1983)
胡桃沢耕史は『翔んでる警視』とかの推理小説家のイメージだったので、シベリア抑留されてるとはまるで知らずでした(収容先はモンゴル)
しかもまたその内容が衝撃的。収容所では(元やくざの)ボス達が独裁体制を敷き、ボスらによるリンチ、飢餓攻めと、どういうこっちゃですよ!
「敵にやられるのよりひどい!」と悲憤慷慨してしまいました。
埋葬風景も壮絶で、死体を井桁に組んだり、死体があるのが通常モードだったのです。
(『黒パン』の中に出てくるボスは、戦後に逮捕・実刑になった有名な吉村隊長という人で、「暁に祈る事件」と呼ばれています。最後まで冤罪を主張)
【2年間の抑留中の死者4000人(捕虜2万人中)】
⑤『戦艦大和ノ最後』吉田満みつる(S27年)
昭和20年、戦艦大和に乗艦し、撃沈後、救助された副電測士*1の記録。
文語体が読みにくいのですが、艦橋への報告業務がある為、艦橋の様子が分かって興味深いです。呉を出港した昭和20年3月末から、撃沈される4/7当日の記録がメイン。(救助されても苦労は続く‥)
4月7日12時
司令長官の「午前中はどうやら無事に済んだな」の言葉の20分後に怒涛の敵機襲来。
2時間の殺戮戦の様子が生々しい(ずっと殺戮されるターン)。
さっきまで一緒だった仲間が肉片となり、または跡形もなく消え去る、恐ろしいまでの非日常の凝縮。でも、『戦艦大和ノ最後』にも創作があると言われています。
【死者3056人。生還者276人】
本当の事を知りたいけれど‥
たくさんの人と出来事が交錯する「戦争」は記憶自体があいまいで、時間がたってからの回想であれば、記憶の改変や美化もあるでしょう。
(他の証言者が戦死していれば、反論や検証も難しい)
第二次大戦後、日本でも多くの「戦記物」が出ますが、関係者を憚り事実が隠されていることも考えられ、「真実ではない部分が存在する」と思いながら読む必要があります。多方面からの検証が必要で、一筋縄ではいかないのが『戦記物』の印象です。
最後に(戦争物で得られた教訓)
私が『戦記物』から得た教訓は大きく2つです。
① 『衣食たりて礼節を知る』
「衣食等の不自由が無くなってはじめて、礼儀・節度・心の余裕が生まれる」の意味。
極限状態のないない尽くしでは、「人間は悪魔にもなる」。
通常モードでは「いい人」が、極限モードでは「悪魔」にもなる。
② 『やさしさ』=『強さ』
戦闘中のような極限状態の中でも優しさやいたわりを見せる、奇跡のような人が確かに存在したようです。
それは、その人が持つ「強さ」の表れなのでしょう(肉体と心の)。
「心の余裕をみせれるのは、その人の心と体の強さ」なのだなぁ、と。
‥ということで、本の内容に深くふれず、印象ばかりの話になってしまって、少し申し訳ないのですが‥。『心が戦慄するようなノンフィクションを読みたい!②戦争編』でした!以上です、ではまた!
*1:レーダー等の情報収集をする部署