物欲子(ぶつよくこ)のブログ

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心が戦慄するような『ノンフィクション』を読みたい!【③歴史・民俗編】『日本残酷物語』、『おあむおきく物語』

『心が戦慄するようなノンフィクションを読みたい!』の続編です。

③回目は【歴史・民俗編】で、日本残酷物語』『おあむおきく物語』の2冊をとりあげました。

butuyokuko.hatenablog.com

①『日本残酷物語①-⑤』(平凡社 S34-36)

 

全⑤巻の力作(この他にも現代篇が②巻あります) 

それぞれの巻には、以下のタイトルがついています。

第①部 『貧しき人々のむれ』
第②部 『忘れられた土地』
第③部 『鎖国の悲劇』
第④部 『保障なき社会』
第⑤部 『近代の暗黒』

 

第①部第②部のタイトルが、特に怖いです(ひぃ)。執筆は、宮本常一民俗学者)、山本周五郎(文学者)ら複数人が手掛けています。

 

発刊された、昭和30年代の社会・人権問題への意識の高まりやその時代の熱みたいなものが感じられる、色んな物のごった煮のような本です。

貧困・差別・社会問題・災害・病気・歴史・民俗・風俗に焦点があてられていて、普段スポットのあたらない「日本の暗い(?)部分」の記録となっています。

しかしその昔はわりとそれが普通で、異常とかひどいとか、そういう考えも薄かったことでしょう。時代が下り、意識も高まり、「あれはひどかった、悲惨だった」と見返される事柄が多くなった結果、の本ともいえます。

また、当時の聞き取りの記録など、今では採集不可能で、とても貴重なものだと思います。

昔の「読書ノート」をみてみると、第①部は「海の略奪者、山民、乞食、飢饉、風土病、間引き、老人、工女、鉱内、遊女‥」等々と、メモってありました。

テーマが多すぎて消化するのが大変な本で、2度借りて、印象がバラバラなまま。いまだまとまった感想に至らず、というのが正直なところです。でも、正体が見えるまで、何度でも読んだらいいのです。そのうち、はっきりと見えてくることもあるのだと思います。

 

そして、『残酷物語』の中で興味をひくのが、執筆者の1人・宮本常一(1907-81)という人物。

民俗学者の彼は、生涯、現地調査をしながら、膨大な著作を遺しました。どの本もたいへん面白そうなのですが、『残酷物語』にも収録された『忘れられた日本人』から読んでみました。

土地の人々の生活を覗いた丁寧な記録。現地の人の中に入っていくやりとり。優しい文章‥。土地の習俗から、中世が垣間見えたりするシーンなどはドキドキとする1冊となっています。

私のように興味関心のとっかかりになる何かを『残酷物語』から探してもいいのかもしれません。

忘れられた日本人 (岩波文庫)

忘れられた日本人 (岩波文庫)

 

② 『おあむ物語・おきく物語』

 

『おあむ物語』

 

 江戸時代の著作で、「落城」という絶対絶命の状況を記した記録です。

 お庵(おあむ)物語は、関ケ原の合戦の際の大垣城籠城の話で、主人公のお庵は、石田光成に仕えた武将の娘でした。

関ケ原の戦い」時、家族とともに大垣城にいて、落城の前日、城を脱出することに成功したお庵は、後日、落城の話を語り残しました。

 

原文は短く、口語の語り口が古風で面白いです。

「また味方へ、取った首天守へ集められて、それぞれに札をつけて覚えおき、さいさい首にお歯黒を付ておじゃる。「それはなぜなりや」、首はおはぐろ首は良き人とて賞玩した。それ故、白歯の首は、お歯黒付て給はれ、と頼まれておじやつたが、首も怖いものではあらないその首どもの血臭き中に寝たことでおじやつた。」

 

引用した文章は、有名なお歯黒を施すシーンです。*1です。生々しく、目に浮かぶような描写に目を奪われます。

 

『おきく物語』

 

もう1人の女性、おきくは淀殿に仕えた上臈女中で、20歳の時、大阪城にいてこちらも落城を経験します。後日、孫に落城の記憶を語り残したのが、『おきく物語』となって世に残りました。

 

5月7日、大阪夏の陣の落城の日、きくは城内の長局ながつぼねにいました。まだ落城するなんて考えもしなかった彼女は、蕎麦焼きを食べようとしていて、城外に火の手があがっていることに気がつきます。そこからが早くて、スピーディー。

 

 「城が落ちる」と察知した彼女は、着物を数枚着こみ金の塊を持って脱出します。

早い時間帯だったのか、意外と人気の無い城内を脱出していきます(まだ敵方がなだれ込む前だったのでしょうか?)。

 

逃げる途中、武者崩れ?に錆刀で脅されたりするものの、金の塊を渡し交渉したりと、弱冠20とは思えない落ち着きぶりを発揮します。その後、運よく淀殿の妹一行と出会い、一行に紛れ込み、命を拾うこととなります。

 

速さ・機転・運の良さ、と「助かった命にはわけがある」と、考えさせられる内容です。*2もたもたしていたら、略奪されて後世に記憶を語り残すことも出来なかったでしょう。

語り残せる」ということ自体が幸運で、運を拾った人の記録なんだな、と感じます。

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大垣市のキャラにもなっている「おあむちゃん 出典: 大垣市のHPより 

…ということで、 この2つの「落城記」が語り継がれ、現代でも読めるということに感謝をしつつ‥、『心が戦慄するようなノンフィクションを読みたい!③歴史・民俗編』でした!今回は以上です、ではまた!

*1:お歯黒首を身分の高い人・立派な武将として賞玩する風習があったらしい。手柄の価値をあげるために、自分の打ち取った首にお歯黒をつけることもした。

*2:「夏の陣」は、日本史上最大の殺戮戦。